『田園の詩』NO.73 「立派な選落」 (1997.10.28)


 歯磨きチューブが終わりになっても、女房は簡単には新しいものを出してくれません。
「まだ残っているヨ」といって自分からしぼり出してくれます。

 私としては、最後まで使ったつもりなのに、まだ数回は使用できるだけの量を絞り出
すから不思議です。わが家では≪チューブしぼり名人≫の許可を得てはじめて新しい
歯磨きを出してもらえるのです。

 子供の頃、チューブ入りのチョコレートがあり、それを最後はチューブを破ってまでも
なめたものです。そのことを女房に話したら、「自分達も皆そうしてた」との答えが返って
来ました。京都の都会の子供も、大分の田舎の子供も同じだったんだな…と昔を思いな
がら二人で苦笑しました。

 ところで、わが山香町(大分県速見郡)でも、一村一品運動の影響下、農家がお米以
外の作物づくりに挑戦しています。花卉、果物、野菜が主産品です。具体的には、ユリ、
ホオズキ、バラ、クリ、イチゴ、キュウリなどです。


     
     イチゴハウスの中。出荷直後だったので赤いイチゴは少なかったです。    
            (09.3.30写)



 生産者が、友達や近所の人なので、出荷作業を見せてもらうことがよくあります。それ
ぞれの産品には、流通する商品(つまりはお金になるもの)としての基準型があるといい
ます。

 例えば、ユリやホオズキは花や房に数の規定あり。キュウリは曲がっているものはダメ。
全ては基準型より小さくても大きくてもダメ。これら市場が受け取ってくれないものを
≪選落≫といいます。

 ≪選落≫はよほどの品薄の年でない限りお金になりません。お金にならないものは、
手間暇かけて出荷できないもので概ね廃棄処分となります。

 それらは基準型から少し外れているだけで、私から見れば立派なものばかりです。
不揃いでも中身に変わりはありません。まして、苦労して育てたもの、最後まで使われ
ずに、ただ捨てられるのではもったいない話です。

 私どもは、この≪選落≫をタダで沢山いただきます。農家の人は貰ってくれたことに
感謝さえしてくれます。こちらこそ有り難い気持ちで一杯なのに…。
                          (住職・筆工)

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